以前、NHKで見かけた『排気口』で興味を持ち、最近では新ヘパリーゼのCMで、おっ、と思った井手茂太率いるイデビアン・クルーの新作『アレルギー』を観てきました。
井手茂太の振付と動き
一見すると普通の小太りなおっさんに見えてしまう井手茂太さんですが、上記のCMでも分かるように、動きにめちゃめちゃキレがあります。そして、その動きの感覚からくる振付も、一見で井出振付と分かることが多いように思います。見ていてて気持ちのいい個性を持たれたダンサーです。
コンテンポラリーダンスで良く名前を聞く方でも、観ている側とすると、やはり、好みの動きがあって、観ていて気持ちの良い方、ちょっと違うかな、と感じる方、と分かれます。井出さんは、振付、動きのキレ共に、好みの部類に入ります。それと、後述する音楽の感覚も他とちょっと違って、イイ感じです。
今回の公演を見ながら、この人の個性はどこから来るのかな、と考えみたのですが、次の四つかな、と思いました。
・ムチの様にしなる四肢
・頭ののけぞり
・体幹の安定性と存在感
・クイックのかかった細かな動き
一つ目の四肢の動きが一番目につきやすい特徴なのですが、脱力した柔らかく、しかし、指先まで神経の行き届いたような動き。剛体ではなく、柔軟なヒモやムチのようなしなりを感じる動き。ゆらゆらとした四肢の動きと、それに加えて、スウェーバックのような上半身や頭ののけぞり。しっかりとした体幹を軸に、そこから伸びた腕、脚、首が柔軟に動く。特に、井出さんの場合は、体型的にも体幹の存在感が大きいので、特に、四肢や頭部の動きが強調されているのかも知れません。他の女性ダンサーと比べると、体型効果は大きいように感じました。また、そんな柔軟で柔らかい印象を持つ動きに、細かなクイックの効いた動きが要所で入ってきます。しなやかなだけでない、スピード感がこれで生まれるように思います。
音楽
動き自体も素晴らしいのですが、演出として選択されている音楽もまた、個性を感じます。『排気口』をTVで観た時、フックになったのが音楽でした。今までに聞いたことのある部類から少し離れるような感じ。メロディというよりも、リズムを中心に、しかし、聴き慣れた組合せの音ではなく、どこか違和感を感じる組合せ。その違和感は、不和ではなく、新しい発見のような心地良さ。似ている他の音楽が上手く出てこないのですが、映画『アキラ』の音楽がそれに近いかも知れません。
音楽としてのクレジットがなく、音響の島武さんという方が担当されているのかも知れませんが、この音楽はかなり好みです。今、『排気口』を後ろで流しながら、これを書いているのですが、スティーブ・ライヒのようにも聞こえますね。メロディではなく、リズムに重きをおいた音楽がほとんどなので、音楽を聞いているだけでも上がってきます。加えて、単に聴き慣れた音ではないので、新鮮さもあり、サントラがほしいです。
音楽にリップシンクロした動きも多数あって、そのシンクロ感が気持ちいいのですが、やっぱり音楽先行での振付なのか、それにしては、音楽が個性的なので、同時に創っているのか、どういう流れの制作になっているのか、興味が湧きます。
日本的な何か
音楽や動きは現代的なのですが、要所々々に日本的なものが出てきます。今回の舞台美術は、畳に太い竹が周囲に数本とシンプルなものなのですが、会場に入ってすぐ、眼に入るこの美術は誰でもが日本的な何かを感じるはずです。他、和装の女性(要注目!)、終盤のボンボリ、サクラなど。日本的なものに対しての意識が作品創りに多少ならず入っているのかな、と感じます。そういう視点で振付をみると、日本舞踊や盆踊り、阿波踊りのような四肢の動きに見えなくもないです。日本舞踊に関してはTVか何かで、そのようなコメントを聞いたような記憶があります。違ったかな。
たまに場末的な雰囲気も
演歌風味な歌謡曲といいましょうか、場末なカラオケスナックな空気、ちょい古めの昼ドラ、そんなキーワードが浮かぶ場面が幾つかありました。あえてはずす、こういう演出は他にもたまに見かけますが、ちょうどいい感じのバランスとセンスで、ダサかっこ良いです。
意味性と抽象と
ダンスと演劇の関係は、抽象画と具象画の関係だと考えています。ダンス作品を作るためには何がしかのモチーフがあるでしょうし、今回の『アレルギー』に対しても、そのタイトルが発想の元になっているはずです。観ている側とすると、個々の振付やシーンの中に何がしかの意味を探してしまいます。数分の短い作品なら、そういう事があまり考えない事も多いのですが、長い作品になってくると、全体を通しての意味生をどうしても考えてしまいます。あのシーンの意味は、この動作の意味は、という感じで。今回も、全体を鑑賞終わって、振り返ると、アレルギー:拒絶反応、ということで、拒絶を感じる動きやシーンが多く見られました。中にはユーモラスなものあったり、日常的なさりげない動きであったり。ただ、そういった分かりやすいものだけなく、抽象度が高く、うん…?となるシーンも。そういうシーンに対して、無い頭でうんうんと考えるのも一つの楽しみではありますが。
冒頭とシーンの切り替えで毎回登場する3人組のマスクの意味は?、登場人物の人間関係は?、で、結局誰と誰が関係を持っているのか?、拒絶と受容、人間ですから時間と共に変化する感情。そういうものもあったように感じました。今回の作品、人間関係を追って図示してから見ると、また違った見え方出来るかも知れません。
総じての感想
少し中盤ダレる感じのシーンがあったり、終盤のフェードアウト的なシメには、もったいない印象を持ちましたが、振付やダンサーの動きのキレ、音楽、個々の演出と総じて、カッコイイですし、所々くすりとなる楽しい場面もあります。少しですが、井出さんのソロっぽいシーンもあります。まさに、動きの切れる小太りですw。初めての生イデビアンでしたが、個性的な作品に満足しました。当日券もあるっぽかったので、興味のある方は是非。
また、だらだらと駄文をば失礼。
追記:2011年3月12日
2011年3月11日の地震の影響で11日と12日の公演が中止になったもよう。
払い戻しもあるようなので、対象者はおっての続報を確認して下さい。
【重要なお知らせ】本日の公演の中止について|ニュース|新国立劇場
【重要なお知らせ】本日12日(土)の公演の中止について|ニュース|新国立劇場